金属塩とは?絶縁抵抗不良を引き起こしうる『金属塩』の洗浄について発生メカニズムや確認・分析方法を解説

電子デバイスの小型化・高密度化が進み、近年ではAIによる自動制御や複合通信を活用した多角的な運用も進展しています。こうした中で、電子デバイスに求められる信頼性は一層重要性を増しています。

その中で、従来では想定されなかったトラブル原因の一つが「意図しない金属塩」です。はんだ付け工程において金属塩の形成は、はんだの接合を成立させるために必須な反応ですが、接合に寄与しない「意図しない金属塩」が副反応として生じるケースがあります。金属塩はウォーターマークのような白いシミのように見える場合や、目視できない形で残ることもあり、課題を困難にしています。

本記事では、「意図しない金属塩」の発生要因から不良へと繋がるプロセス要因について解説します。さらに、金属塩残渣の確認・分析方法・効果的な洗浄プロセス、そしてよくある質問までご紹介します。

フラックス残渣とは?フラックス残渣の種類と分析方法

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フラックス洗浄において金属塩とは、金属を主体とした除去対象成分の総称となり、以下の2種で大別されます。

  • イオン性結合を有しているもの
  • 金属酸化物として構成されているもの

Pbフリー化が果たされて以来Sn(スズ)を主体とした金属塩が問題となってしまう事例が時折報告されていましたが、近年では合金組成の多様化に加え、活性剤成分がハロゲンから有機酸へとシフトした事で金属塩形成のプロセスは複雑化しており、結果的に洗浄難度を高める要因となっています。

種類 ①合金の酸化物 ② 合金と活性剤との化合物 ③ 合金同士の金属化合物
成分

SnO CuO Cu2Oなど

はんだペーストにハロゲンを使用している場合⇒SnBr2 SnI2 など

   

はんだペーストに有機酸系を使用している場合

有機金属化合物としての形態

 

 

上図に示すように活性剤として振る舞う「有機酸」は本来銅表面を還元し、「銅との金属塩」を形成する事で、はんだ合金へ銅を導く役割を果たしています。誤解されているケースが多く見受けられますが、金属塩形成ははんだの接合には必須な技術となります。

では、なぜ金属塩が問題となるのかというと、『意図しない金属塩の形成』が伴ってしまう事にあります。

有機酸が作用する相手を銅だけに集中させる事は実質困難で、余剰反応(副反応)として合金中の最も酸化されやすいSnをターゲットとして各種の金属塩を形成してしまう反応も同時に生じます。よって金属塩形成を完全制御する事はできません。

金属塩の問題が顕著になっている背景としては、以下の3点が挙げられます。

  •  熱経時への耐性
  • 微細接合性の安定化
  • 合金組成の複合化

接合強度の向上には活性剤量を増加させる事が不可欠となりますが、有機酸の相対量が増加するため余剰反応の割合も同時に増加傾向となります。また、問題となる金属塩はSn(スズ)が主体ですが、近年ではBi(ビスマス)やSb(アンチモン)とったレアメタル系の金属もはんだ合金の素材の1つとして使用されており、形成される金属塩種はより複雑化しております。

多くの金属塩はイオン化することで「導電性」を有する事となります。

また、酸化物は吸湿性を有している事もあり金属表面の腐食を誘発する可能性もあるため、下記のような不良の要因となりえます。

最大の懸念事項としては金属塩の種類・残存量によっては外観観察では判別が難しいため、知らず知らずのうちに金属塩を見過ごしてしまう可能性がある事です。見えないコンタミネーションへの対応は非常に難解となります。

マイグレーションとは、導電部間に電解液が存在する状態で電圧が印加された際に、陽極から陰極へ金属イオンが移動し、陰極に金属が析出する現象です。この析出した金属が樹枝状に成長すると、電極間が短絡(ショート)し、回路の誤動作や故障に繋がります。

特に、フラックス残渣に含まれるイオン成分が水分を吸湿して電解質溶液となることでマイグレーションを助長するため、金属塩残渣が問題となるケースが多く存在します。

金属塩の種類によっては大気中の温度・湿度の影響を受けただけでも導電性を有する場合があります。また高密度実装部はもともとの絶縁特性がシビアなため、わずかな金属塩残渣による影響も受けやすいケースが見受けられます。

金属塩は銅・アルミといった接合表面においては「物理的障害」となりますので、
ワイヤーボンディングへの接合性歩留まりへの悪影響も見受けられます。

①外観観察

金属塩残渣の確認には、まず「外観観察」が手軽で一般的です。
目視や顕微鏡を用いて、白いシミや結晶状の残渣を確認します。

②SEM/EDS(EDX) (走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析装置)

由来が不明の残渣・より詳細な分析には、「SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析)」が有効です。SEM-EDSは、対象物質に電子線を照射し、発生する特性X線を検出することで、微小物の詳細な形状観察と元素分析を同時に行うことができ、残渣の構成元素を特定し、金属塩の有無や種類を判断することが可能です。

走査型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分光法とは、加速された電子線を照射し試料表面の拡大観察を行うSEMと、その電子線照射によって発生する特性X線を検出し元素分析を行うEDSを組み合わせた装置です。

JSM-IT710HR (日本電子製)

残渣中には塩形成および、外因のコンタミネーション混入が示唆される。

③蛍光X線

蛍光線は電子線と比較し特に重金属元素の検出感度が高く、マッピング測定用途としても優れているため、金属塩の検出には最適な分析装置と言えます。

測定協力:ブルカージャパン様  /  サンプル作成協力:弘輝様

M4 TORNADO PLUS
BRUKER製


 

フラックス残渣中にもSnの分布が確認できます。
※上記画像: Sn-Lα

金属塩はフラックス残渣中以外の場所にも分布しており、目視だけでの判断を行った場合、十分な清浄度確認ができない可能性が高いと言えます。

よって、洗浄検討段階ではSEM-EDSなどを用いた化学分析を伴った評価を実施する事が望ましいと言えます。

 

測定協力:日本電子様、サンプル作成協力:弘輝様

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金属塩形成はフラックス残渣内部でも生じており、フラックス残渣中の有機物成分と複合化しています。

特に無洗浄はんだでは、残渣の安定化が前提となっているため、洗浄による除去が難しく、洗浄性の確保が大きな課題となります。

また、金属塩の除去に加え、アミド化合物やポリマーなどの難溶性物質にも対応する必要があります。金属塩の多くはイオン性物質としての性質を持ち、水系洗浄剤のような極性のある洗浄剤によって洗浄効果が期待できます。

一方で、アミド化合物やポリマーといった物質の除去には、脂溶性の高い特性が求められるため、洗浄剤には相反する溶解特性(親水性と親油性)を兼ね備えた性能が求められます。これにより、多様なフラックス残渣成分に対応できる高機能洗浄剤の選定が、重要となります。

無洗浄はんだはフラックス残渣を完全封止することで安定化させ、対候性・絶縁特性を維持するように設計されており、洗浄するということはこの安定化したフラックス残渣を意図的に壊す作業となります。硬質化したフラックス残渣表面層を取り除き洗浄を行っていきます。

6. 洗浄プロセスの選定

意図しない金属塩を残さない洗浄プロセスを確立するためには、以下の点に留意することが重要です。

①適切な洗浄剤の選定

フラックスの種類や残渣の性質(金属塩の種類・有機成分の溶解性)に応じて、最適な洗浄剤を選定します。
特に低スタンドオフ洗浄が求められる場合は、狭小部への浸潤性に優れた洗浄剤の選択が不可欠です。

アルコールでの洗浄

溶解性が得られず、残渣が白化

残渣が白化
⇒溶解性が得られない

炭化水素での洗浄

不溶性成分濃縮(再付着)され、表面に白色残渣。

表面に白色残渣
⇒不溶性成分濃縮(再付着)

 

複合化した残渣は、単一組成の洗浄剤では対応困難
⇒金属塩・難溶性物質の洗浄方法確立が重要

洗浄条件の最適化

洗浄時間、洗浄温度、洗浄方式(スプレー、噴流、超音波など)を適切に設定します。洗浄時間を延長したり、温度を上げたり、シャワーやスプレーの圧力を上げたりすることで、残渣の除去効果を高めることができます。

③分析と評価

洗浄後の基板を、外観観察やSEM-EDS(EDX)などの方法で分析し、金属塩残渣が除去されているかを確認します。

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