溶剤系洗浄剤によるフラックス洗浄の落とし穴
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- そもそもイオンとは?
- イオン残渣が引き起こす問題例
- イオン残渣の分析手法 など
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溶剤系洗浄剤によるフラックス洗浄
様々な分野で使用されている有機溶剤は、現在の化学工業において不可欠な存在であり、使用を完全に止めることは難しいのが現状です。
近年では各業界における技術躍進と企業努力により、有機溶剤の使用量・大気排出量は大きく削減されてきていますが、日本の電子デバイスのフラックス洗浄において、有機溶剤を主体とした洗浄剤(溶剤系洗浄剤)が広く使われています。
しかし、フラックス洗浄は実質的に「複合物質残渣洗浄」へと変化しており、溶剤系洗浄剤は、ロジンなどの有機成分に対しての有効性は非常に高いですが、イオン性物質や難溶性金属塩をほとんど溶かすことはできないため、「溶解」させる手法での除去は困難です。
さらにイオン性物質に焦点を当てると、イオンがデバイス表面・電極間・低スタンドオフに残留することでマイグレーションや腐食などの危険性を高め、その結果様々な不良を引き起こすこととなります。
※金属塩の洗浄については、『Sn-Bi系低融点はんだペースト 洗浄性検証』をご覧ください。
溶剤系洗浄剤とは?
有機溶剤が主体の洗浄剤のことを指します。種類としては、有機溶剤を単一成分として使用する(IPA、トルエン、塩化メチレン、アセトン、エタノールなど)、有機溶剤等がブレンドされている洗浄剤などがあります。
まれに、有機溶剤に対し若干量の水を添加した製品(例:水が10%ほどの添加)であっても「水系洗浄剤」と呼称するものもありますが、正しくは「溶剤系洗浄剤」になります。
※より詳しく知りたい方は下記ページをご覧ください。
フラックス洗浄剤の種類と選定方法
水系洗浄剤とは?
溶剤系洗浄剤を使ったフラックス洗浄においては、蒸留再生を併用している洗浄機があります。特徴として、
- 一液での洗浄運用ができるので効率的
- 蒸留再生により洗浄剤の連続使用が可能
と言われています。
洗浄剤使用量が多い企業では大型の蒸留再生機を所有しており、使用済み洗浄剤を適時回収後、有機物質・金属化合物を蒸留再生によって除去し清浄度が回復した洗浄剤を再使用しています。また、洗浄機で蒸留再生機構を有する場合は、蒸気リンスを最終的に行うことで洗浄対象物の清浄度を確保しています。
▼蒸留再生を併用している洗浄機例
溶剤系洗浄剤の課題
溶剤系洗浄剤の洗浄プロセスでは、蒸留再生を用いることで、一液で運用できる且つ洗浄剤の連続使用が可能とお伝えしましたが、洗浄機の運用を重ねるとある課題が出てきます。
どのような点が課題となってしまうのか解説いたします。
- 蒸留再生の難易度の高さ
蒸留をイメージした場合、次の図のような装置になります。これは「単蒸留」という手法であり最も基本的な蒸留機構です。
どれだけ蒸留再生装置が大型化しても原理の基本は同じですが、蒸留操作は複雑で、1回の蒸留では思うような精製ができないのが実情です。フラックス成分が溶け込んだ洗浄剤の蒸留に焦点を当てると、沸点上昇※1・共沸※2といった現象が精製を困難とします。
※1 沸点上昇:不揮発性の溶質を溶媒に溶解させると蒸気。
※2 共沸:液体の混合物が沸騰する際に液相と気相が同じ組成になる現象(一定の割合で混合する)。
一般的な溶剤系洗浄剤は再生率が80~90%ですが、ゼストロンのZESTRON® VDは再生率が約97%と高いため、蒸留再生を併用している洗浄機での運用に適しています。
▼基本的な蒸留装置
- 洗浄槽・リンス槽内にイオン性物質が残留してしまう
例として泥だらけとなった服を手洗いする場面を想像してみてください。ある程度手洗いすると水は砂泥で真っ黒になりますが、この水を交換せずに手洗いを続ける方はいないでしょう。
汚れた水を交換することは化学的視点に立つと、コンタミネーション濃度の低下を行って溶解性・分散性を良くすることになります。イオン残渣を洗浄する際も同様で、系中のイオン濃度を極力低く維持しながら洗浄することは非常に重要です。しかし、実際の洗浄工程において多量の溶剤系洗浄剤を頻繁に交換・新調することはナンセンスで、多くの場合は蒸留再生を行うことで清浄度を維持していきます。
しかし、洗浄機の運用を重ねると、ワークへの再付着や蒸留再生からの混入により、イオン量が増加し、最終的にワークに目に見えない残渣としてイオンが残ってしまう可能性があります。
▼服を手洗いするイメージ
砂泥が服に再付着するため、水が汚れたら適時交換する。
【イメージ図】溶剤系洗浄剤の洗浄プロセス
~コンタミの流れ~
※上記の洗浄プロセスは一例です。溶剤系洗浄剤のプロセスは、専用のリンス剤を用いてリンスを行う場合が多く見られます。
➊洗浄剤やリンス剤が新しい状態だと、洗浄性は高いです。
➋洗浄を繰り返すと状況が変化します。イオンと有機物の除去が不完全なため、洗浄槽やリンス槽のコンタミ量が増加します。
➌最終的に、蒸留再生の精製度が低下し、リンス3にもイオンが残留してしまいます。乾燥後のワークに、目に見えない残渣として残る可能性があります。
フィルタでイオンを吸着できないの?
金属イオンの除去に関しては溶剤系洗浄剤中であっても除去できるフィルタは市販されておりイオン濃度の低減には効果的ですが、フラックス中の活性剤として使用されている有機酸/有機アミン系イオン、ハロゲン系イオンの完全な除去は技術的にも困難となります。
イオンに対する溶剤系洗浄剤と水系洗浄剤の洗浄性比較
溶剤系洗浄剤ではイオンを除去できないとお伝えしましたが、イオンに対しどうアプローチすればよいか、溶剤系洗浄剤と水系洗浄剤の洗浄評価とあわせて紹介します。
洗浄評価
▼洗浄サンプル
「無洗浄タイプのはんだペースト」を使用した実装基板
▼洗浄条件:各洗浄剤の最適条件下にて10分間洗浄
水系 | 溶剤系 | ||
洗浄剤 | ゼストロンの水系洗浄剤 (VIGON® PE 305N) |
炭化水素/ グリコールエーテル系 |
ハロゲン系 |
洗浄方式 | スプレー | 超音波 | 超音波 |
▼分析手法
イオンクロマトグラフィーにてイオン残量を測定(IPC-TM-650, method 2.3.28 B 準拠)
▼結果
溶剤系洗浄剤と比べ、水系洗浄剤(VIGON® PE 305N)で洗浄した方がイオン残量が、少ないことが分かりました。
水系洗浄剤であればイオンの溶解は容易となり、このような結果が得られたのはゼストロンの水系洗浄剤が持つ独自のMPC®洗浄機構とスプレー方式の組み合わせにあります。溶剤系洗浄剤では溶解が困難となりがちなポリマー・高耐熱性物質を、効果的に剥離洗浄できたことがイオン量の低下に寄与しています。
【イメージ図】水系洗浄剤(VIGON® PE 305N)×スプレー方式でのコンタミの流れ
※活性炭・イオン交換樹脂の接続方法は一例です。運用状況に応じて接続方法は変更可能で、フィルタの寿命延命にもつながります。
➊洗浄槽では、水系洗浄剤のためイオンは溶解され、MPC®洗浄機構により有機物は剥離されます。その後、剥離された有機物をフィルタで吸着できるので、再付着は少ないです。
再付着が少ない様子が分かる動画を見る
▼ワークからフラックスが剥離される様子
➋リンスは純水で行うため、イオンは溶解されます。
➌活性炭・イオン交換樹脂にて、イオンと有機物をそれぞれ吸着することができます。
❹➌での吸着とカスケードにより、リンス3にイオンがほとんど残留しません。
水系洗浄剤の洗浄プロセスは廃水量が多い?
廃水量が多いと言及されるケースもありますが、洗浄プロセスをどう構築するかで一概に多くはならないです。例えば、リンス槽の純水を洗浄槽で再利用するプロセスだと、廃水量を削減できるだけでなく、リンス槽の清浄度維持につなげることもできます。
おすすめ技術資料「イオン残渣の課題と分析方法」
- そもそもイオンとは?
- イオン残渣が引き起こす問題例
- イオン残渣の分析手法 など
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現在、市場に流通している多くのフラックスは、従来のロジンよりも複雑で、溶解度の異なる複数の成分を含んでいます。
MPC®洗浄機構は、剥離洗浄を主体とした剥離+溶解のダブル方式の洗浄を行えるため、複雑なコンタミに対しても強力な洗浄性を持っています。
剥離+溶解による洗浄の様子を動画にてご紹介します。
参考として、コンタミが混在するテスト基板を使用して、MPC®洗浄剤と溶剤系洗浄剤での洗浄比較をしました。
【動画】MPC®洗浄剤と溶剤系洗浄剤での洗浄比較
▼テスト基板の詳細
テスト基板 |
ガラス板 | |
水溶性コンタミ (活性剤、無機塩、有機塩、界面活性剤など) |
||
脂溶性コンタミ (ロジン、ポリマー、増粘剤、粘着付与剤、チキソトロピー付与剤など) |
▼洗浄結果
MPC®洗浄剤 |
溶剤系洗浄剤 (グリコールエーテル系) |
|
---|---|---|
洗浄できた | 残っている | |
洗浄できた | 一部残っている | |
結果 | 完全に洗浄 | 部分的に洗浄 |
解説 |
|
水溶性コンタミで溶けきれなかったものが、脂溶性コンタミを巻き込んでしまい、部分的に洗浄されている |
イオン残渣に関する技術資料・コラム
洗浄から清浄度分析までワンストップで
洗浄を検討するにあたって、洗浄剤だけでは完結しません。
弊社は洗浄剤メーカーではありますが、ワークに適した洗浄方式を選択するこ と、そして洗浄後の分析も重要と考えています。
そのため、洗浄剤のご提案だけでなく、洗浄方式の選定、清浄度分析もサポー トさせていただきます。