イオンクロマトグラフィーとは?基板上のイオン種を特定する方法を動画で解説
電子基板の表面に残留するイオンは、腐食や製品出荷後の故障を引き起こす要因となる可能性があるため、イオン残渣の測定は電子基板の品質を確認するうえで重要です。基板全体に存在するイオン残渣の総量を迅速に把握できるものが ROSE Test/ イオンコンタミ分析です。ただし、総量だけでは不十分で、「どのイオンが、どれだけ存在するのか」を把握したい場面も多くあります。そこで活用されるのが イオンクロマトグラフィー(Ion Chromatography) です。
本動画では、基板上に存在するイオン種をどのように特定するのか、そしてイオンクロマトグラフィーがなぜ精密なイオン分析に適しているかを解説します。 また、動画の内容をテキストでも詳しく解説しています。
動画の内容を詳しく解説
▼イオンクロマトグラフィーは、イオンを分離して種類と量を測定
|イオンクロマトグラフィーとは?
イオンクロマトグラフィーとは、イオンを分析対象とした高速液体クロマトグラフィーの一種で、液体試料中の無機イオンやハロゲン化物イオン、有機物イオンといった各種イオンを分離・分析することが可能です。半導体関連だけでなく、水質検査、環境関連、食品、医薬品等様々な分野において利用されています。
イオンコンタミネーション測定と異なり、各種イオンを個別に測定し数値化することが可能であるため、イオンの種類から残渣の要因となる物質を推察し、洗浄条件や製造工程の改善につなげることができます。
イオンクロマトグラフィーの測定原理と分離の仕組み
イオンクロマトグラフィーは、水溶液試料中に含まれるイオン種成分を、カラムを用いて分離し、検出器にて各イオン種成分を検出する分析方法です。
分離されたイオンは、サプレッサという装置を経て電気伝導時計で検出され、その信号の強さから各イオンの濃度を算出します。
溶離液とカラムの相互作用による成分分離
装置内を流れる移動相(溶離液)の中に注入された試料は、固定相(カラム)へと運ばれます。
カラム内部にはイオン交換樹脂が充填されており、試料中の各イオンが樹脂に対して持つ結合の強さ(親和性)の差によって、カラムを通過する時間に違いが生じます。
この「保持時間の差」こそが、成分分離を実現する鍵となります。
|イオンクロマトグラフィーで何がわかるのか?
従来の簡易的な測定法(ROSE Test / イオンコンタミ分析など)では、基板全体のイオン残渣総量はわかりますが、イオン残渣の特定までは不可です。イオンクロマトグラフィーを用いることで、その内訳を詳細に把握できるようになります。
測定可能なイオンの種類
イオンクロマトグラフィーでは、主に以下のイオン種を分離・定量することが可能です。
| アニオン | フッ化物 (F) 塩化物 (Cl) 亜硝酸 (NO2) 臭化物 (Br) 硝酸(NO3) リン酸 (PO4) 硫酸 (SO4) |
|---|---|
| 有機酸 | ギ酸 酢酸 メタン-1-スルホン酸(MSA) リンゴ酸 コハク酸 グルタル酸 アジピン酸 |
| カチオン | リチウム (Li) ナトリウム(Na) アンモニウム(NH4) カリウム (K) カルシウム (Ca) マグネシウム (Mg) |
※分析可能なイオン種は、使用するカラムや測定条件などによって異なります。
定性分析と定量分析
イオンクロマトグラフィーの最大の特徴は「定性」と「定量」が同時に行える点です。
- 定性分析:クロマトグラム(測定チャート)上のピークが現れる時間(保持時間)から、そのイオンが何であるかを特定します。
- 定量分析:ピークの大きさ(面積)から、そのイオンが基板上にどれだけの濃度で存在するかを数値化します。これにより、IPC規格などの業界標準値と比較した評価が可能になります。
一方で、カラムクロマトグラフィの性質から、分離カラムや測定条件によっては検出不可能なイオンも存在するため、測定試料中の全てのイオンを分析できるとは限りません。
|なぜ基板上のイオン分析が重要なのか?
電子基板上のイオン残渣は、湿気と反応することで腐食やイオンマイグレーション(金属の樹枝状析出)を引き起こします。近年は部品の小型化・高密度化や高電圧化が進んでおり、微細な残渣でも回路の短絡(ショート)を招くリスクが高まっています。どのイオン種が原因かを特定することは、イオン種の混入経路の推測が可能となるため、洗浄プロセスの改善や材料選定の適正化に役立ちます。
※関連ページ
基板からイオンを抽出する前処理方法
基板はそのままでは装置にかけられないため、表面の残渣を液体に溶かし出す「抽出」作業が必要です。
一般的には、IPC規格(IPC-TM-650 2.3.28Bなど)に基づき、2-プロパノール(IPA)と純水の混合溶媒を使用します。基板を専用の袋に入れ、抽出します。この抽出条件となる「溶解力」「時間」「温度」が分析精度の鍵となります。
※ここでは一般的な分析フローを解説します。
- 抽出液のサンプリング:抽出した液体をシリンジで吸い取り、0.45μm程度のフィルタでろ過してゴミを除去します。
- オートサンプラーへのセット:装置に試料をセットし、分析プログラムを開始します。
- カラム分離:ポンプで送られた試料がカラム内で各イオンに分離されます。
- 検出・データ処理:検出器が捉えた信号がPC上でチャート化されます。
分析結果(クロマトグラム)の見方
分析が終わると、横軸に時間、縦軸に電気伝導度を示した「クロマトグラム」が得られます。特定の時間に現れる鋭い山(ピーク)が、それぞれのイオン種を示しています。
例えば、フラックス由来の有機酸であれば特定の時間帯にピークが出現します。このピーク面積を標準液と比較することで、μg/cm2といった単位で基板単位面積あたりの汚染量を算出します。
|イオンクロマトグラフィーによる基板分析の事例
実際の現場でどのようにイオンクロマトグラフィーが活用されているか、具体的な事例を紹介します。
事例1:イオンマイグレーションが発生した基板の分析- フラックス残渣に由来するイオンの特定
イオンマイグレーションが発生した未洗浄基板をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、臭化物イオンが2.76μg/cm2、グルタル酸イオンが13.82μg/cm2検出された事例があります。
これはIPC規格(IPC-CH-65B))の参考値(臭化物:1.55、グルタル酸:3.88)を大幅に超えており、フラックス由来のイオン成分が十分に除去されていないことが不具合の原因である可能性が非常に高いと考察しました。
この場合、リフロー条件の見直しやはんだ付け後の洗浄工程の導入といった対策が必要となります。
| イオン種 | 数値(μg/cm2) | IPC規定内参考値(μg/cm2) |
|---|---|---|
| 臭化物イオン | 2.76 | 1.55 |
| グルタル酸イオン | 13.82 | 3.88 |
事例2:清浄度評価への応用
洗浄剤や洗浄条件を変更した際、どの程度効果があったかを検証する際にもイオンクロマトグラフィーは有効です。例えば、アジピン酸やコハク酸といった異なる種類の有機酸活性剤に対し、現在の洗浄工程がどれだけ除去能力を持っているかを数値で比較することで、最適な洗浄プロセスの構築が可能になります。
※以下は右記の図に関する補足です。
IC測定結果:
未洗浄のコンタミネーション量(µg/cm2)を100と見たときの洗浄条件ごとのコンタミネーション量の割合
IC分析条件:IPC-TM-650, method 2.3.28B準拠
他の分析手法との使い分け
|FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)との違い
FT-IRは赤外線(赤外光)を試料に照射し、物質がどの波長の赤外線を吸収するかを測定します。有機物質が持つ固有のスペクトルを得られるため、有機物残渣の特定が可能です。
|SEM-EDS(走査電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分析)との違い
SEM-EDSは基板上に存在する残渣の形状および構成元素を特定することに優れ、はんだ接合部以外に分布する金属元素や濃度の高い炭素・酸素元素の位置から金属塩の検出を行うことが可能です。
イオンクロマトグラフィーに関するQ&A
- イオンクロマトグラフとイオンクロマトグラフィーの違いは何ですか?
イオンクロマトグラフは分析装置を表し、イオンクロマトグラフィーはその分析手法を表します。
- ROSE Test(イオンコンタミ分析)との違いはなんですか?
ROSE Testではイオン総量を評価しますが、イオンクロマトグラフィーではイオン種ごとに定量的な分析を行うことが可能なため、イオン種の混入経路の推定ができます。
関連記事:
ROSEテストとの違い:イオン残渣分析 見えない残渣から不良へ
- イオンクロマトグラフィー分析をゼストロンに依頼するメリットは?
イオンクロマトグラフィーによる分析では、カラム、検出器、温度などの分析条件の適切な設定・管理が重要です。
ゼストロンでは、フラックス洗浄におけるイオン残渣の分析に関わるカラムや検出器などについて、グローバルで管理・運用しています。こうした分析ノウハウと洗浄に関する知見を組み合わせ、「何が残っているのか」を明らかにするだけでなく、「なぜ残っているのか」「どう改善するのか」まで考察できる分析サービスを提供しています。
ゼストロンの分析サービスのご案内
イオンクロマトグラフィーでは、基板上に残留するイオンの種類や濃度を分析することで、単なる清浄度の確認だけでは分からない「何が残っているのか」を把握することができます。
ゼストロンでは、イオンクロマトグラフィーをはじめ、FT-IR、SEM-EDSなどの分析手法を用いた受託分析サービスを提供しています。
さらに、フラックス洗浄剤メーカーとして培った洗浄に関する知見を活かし、分析結果のご報告だけでなく、残渣の原因推定や洗浄条件・製造工程の改善についてもサポートしています。
基板上のイオン残渣の種類や量を確認したい場合、洗浄後の清浄度を評価したい場合、不具合の原因を調査したい場合など、お客様の課題に応じて適切な分析方法をご提案します。
お役立ち資料・記事
関連動画
|フラックス洗浄や分析に関する動画をもっと見る
動画一覧
おすすめ資料電子基板におけるイオン残渣とその分析手法
下記に当てはまる方は、ぜひ資料をダウンロードください。
- 電子基板上で問題が起きている
- イオン残渣の分析方法が分からない
- イオン残渣の分析事例を知りたい
無料ダウンロード
洗浄から清浄度分析までワンストップで
洗浄を検討するにあたって、洗浄剤だけでは完結しません。
弊社は洗浄剤メーカーではありますが、ワークに適した洗浄方式を選択するこ と、そして洗浄後の分析も重要と考えています。
そのため、洗浄剤のご提案だけでなく、洗浄方式の選定、清浄度分析もサポー トさせていただきます。