超音波洗浄の原理とは?周波数の仕組みから装置選定・運用まで解説
産業用部品の製造工程において、部品表面や微細な隙間に残存する異物は、製品の信頼性や歩留まりを大きく左右する可能性があります。
超音波洗浄は、こうした目に見えない微細な汚れに対して、物理的な力でアプローチできる精密洗浄の1つです。
しかし、洗浄対象(ワーク)の材質や形状、汚れの性質に応じて超音波洗浄装置を適切に条件設定しなければ、十分な効果が得られないばかりか、ワークを破損させるリスクを伴います。
本記事では、超音波洗浄の原理・メカニズムから、装置選定や洗浄プロセスを構築する上でのポイントを解説します。
目次
1. 超音波洗浄とは?見えない力で微細な汚れを落とす仕組み
2. 超音波洗浄の役割
3. 超音波で汚れが落ちる3つの基本原理とメカニズム
3.1 原理① キャビテーション効果:汚れを剥離する衝撃波
3.1.1 キャビテーション(蒸気性キャビテーション)の発生メカニズム
3.1.2 なぜキャビテーションで頑固な汚れが落ちるのか?
3.2 原理② 直進流:剥がした汚れの再付着を抑える
3.3 原理③ 加速度(粒子加速度):微細な振動による引き剥がし作用
4. 洗浄効果を左右する「周波数」の選び方とは?
4.1 低周波数(20~50kHz):強力な洗浄作用を得やすい一方、ワークへのダメージに注意
4.2 高周波数(50kHz~MHz帯):微細粒子の除去に適し、ワークへのダメージを抑えやすい
4.3 洗浄対象に応じた周波数の選定マップ
5. 超音波洗浄プロセスを構築するための6つのポイント
6. 超音波洗浄の効果を最大化する運用の6つのコツと注意点
7. よくあるご質問
8. まとめ:安定した洗浄プロセスを構築するために
9. 洗浄剤・洗浄プロセス選定でお悩みの方へ
10. 技術コラム・資料
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1. 超音波洗浄とは?見えない力で微細な汚れを落とす仕組み
超音波洗浄とは、人間の耳では感知できない高い周波数(一般に20kHz以上)の音波を液体中に伝播させ、それによって生じる物理的な作用を利用してワーク表面の付着物を除去する洗浄方法です。
液体中に超音波を放射すると、液分子が激しく圧縮と膨張を繰り返すことで、強力な物理エネルギーが局所的に発生します。このエネルギーが、複雑な形状の内部や、ブラシでは届かない微細な隙間にまで到達し、洗浄することを可能にしています。
2. 超音波洗浄の役割
洗浄技術は、化学的な作用を利用する化学作用と、物理的な力によって異物を除去する物理作用の2種類に大別されます。
化学作用は、水系・準水系・溶剤系などの洗浄剤を用いて汚れを溶解・分解する手法ですが、頑固な固形異物や隙間に入り込んだ汚れなどには化学作用だけでは不十分な場合があります。そのような場合には、超音波の物理作用と洗浄剤の化学作用を組み合わせることで、洗浄性を向上させることができます。
物理作用には超音波洗浄のほかにもスプレー洗浄や噴流洗浄などの方式があり、それぞれ特性が異なります。
各洗浄方式の特徴や選び方については、下記ページをご覧ください。
3. 超音波で汚れが落ちる3つの基本原理とメカニズム
超音波洗浄における物理的な洗浄作用は、主に以下のような物理現象が洗浄に寄与します。
- キャビテーション効果
- 直進流(音響流)
- 加速度(粒子加速度)
これらが複合的に作用することで、ワーク表面や隙間から汚れが除去されます。
3.1 原理① キャビテーション効果:汚れを剥離する衝撃波
キャビテーション効果は、特に低周波帯の超音波洗浄において、洗浄作用をもたらす重要な現象です。
液中に超音波が伝わると、液分子が激しく振動し、局所的に圧力が極めて低い領域(負圧領域)と、圧力が極めて高い領域(正圧領域)が交互に現れます。
負圧領域において液体の分子間結合が引き裂かれると、液中に目に見えない微細な真空の泡(キャビテーション気泡)が多数発生します。
その後、周囲が正圧領域に転じた瞬間に、これらの気泡は外部からの高圧によって急激に押し潰され、最終的に激しく破裂(圧壊)します。
▼蒸気性キャビテーションによる洗浄
3.1.2 なぜキャビテーションで頑固な汚れが落ちるのか?
キャビテーション気泡が完全に消失する瞬間、周囲の液分子同士が超高速で激突し、気泡がワーク表面近傍で非対称に崩壊することで、局所的な高速液流(マイクロジェット)や衝撃圧が発生します。これが付着物の粉砕・剥離に寄与します。
3.2 原理② 直進流:剥がした汚れの再付着を抑える
直進流(音響流)とは、超音波が液中を伝わる際、音波の進行方向に沿って発生する連続的な液体の流れを指します。
超音波エネルギーの一部が液体に吸収され、運動エネルギーに変換されることで強い攪拌流が生まれます。この効果により、キャビテーションや加速度作用によってワーク表面から剥がし取られた汚れが、再びワークに引き寄せられて再付着するのを低減します。
ただし、直進流だけで再付着を完全に防ぐことは難しいため、複数の振動子の位相を調整したり、ワークを揺動させたりすることで再付着を抑制する方法も用いられます。
3.3 原理③ 加速度(粒子加速度):微細な振動による引き剥がし作用
粒子加速度とは、洗浄液中の水分子が超音波により振動し、この振動によって汚れをワークから剥離させる作用です。
キャビテーションのような急激な破裂を伴う強い衝撃とは異なり、ワークと汚れの境界層に対してダイレクトに高速な微振動を与えることで、汚れを「揺さぶって引き剥がす」ように作用します。
周波数が上がるにつれてキャビテーションの発生・成長・崩壊の挙動が変化し、個々の気泡崩壊による衝撃作用は弱くなる傾向がありますが、微細な気泡が多数発生しやすくなるなど、洗浄メカニズムが変化します。
4. 洗浄効果を左右する「周波数」の選び方とは?
超音波洗浄において、周波数は物理作用の性質を決定づける重要な要素です。周波数の高さによって、発生するキャビテーションの破壊力や、液中での音波の挙動が変化します。
▼低周波と高周波の特徴
| 一般的な波動の特徴 | 超音波洗浄における特徴 | |
|---|---|---|
| 低周波 |
|
キャビテーション崩壊時のエネルギーが大きく、 洗浄力(破壊力)が強い |
| 高周波 |
|
キャビテーション崩壊時のエネルギーは小さく、 分子振動による洗浄が主体 |
周波数は、単位時間あたりの振動回数を表す重要な物理量です。ただし、波動のエネルギーは周波数だけで決まるものではなく、振幅などの条件にも左右されます。
超音波洗浄では、周波数が変化するとキャビテーション気泡の発生・成長・崩壊の状態も変化します。そのため、高周波になるほど単純に洗浄エネルギーが大きくなるわけではありません。
低周波では比較的大きな気泡の崩壊による強い衝撃作用が得られやすく、高周波ではより微細な物理作用が主体となるなど、周波数によってエネルギーの現れ方が変化します。
4.1 低周波数(20~50kHz):強力な洗浄作用を得やすい一方、ワークへのダメージに注意
前述の通り、低周波数帯ではキャビテーション崩壊時のエネルギーが大きいため、強力な洗浄力を発揮します。
一方で、発生する衝撃力が強すぎるため、ワークの表面に微細な傷(エロージョン)やクラックが生じるリスクがあります。
4.2 高周波数(50kHz~MHz帯):微細粒子の除去に適し、ワークへのダメージを抑えやすい
高周波数帯では気泡が大きく成長する前に破裂するため、個々のキャビテーションによる衝撃力は弱くなりますが、その代わりに発生する気泡の密度が高まり、水分子の振動加速度(粒子加速度)が洗浄の主体となります。
衝撃によるワークへのダメージを抑えられる点も、高周波帯の大きな特徴です。
4.3 洗浄対象に応じた周波数の選定マップ
洗浄対象と周波数帯の関係を整理すると、以下のようになります。
なお、周波数だけで洗浄性が決まるわけではありません。洗浄剤の種類や温度、洗浄時間なども含めて条件を最適化することが重要です。
5. 超音波洗浄プロセスを構築するための6つのポイント
超音波洗浄プロセスを構築するには、洗浄対象や汚れの性質に応じて、装置の設定や運用方法など複数の要素を総合的に見極める必要があります。
押さえておきたい6つのポイントは、次の通りです。
| ポイント | 確認すること | 不十分な場合のトラブル | |
|---|---|---|---|
| ① | 対象物(ワーク)の材質・形状 | 材質(鉄、SUS、アルミニウム、銅、樹脂、ガラスなど)と形状(板状、円筒形、袋穴・細孔の有無) |
|
| ② | 汚れの種類に合った周波数・出力 | 汚れの性質(切削油、防錆油、研磨粒子、切粉、埃、フラックスなど)に応じた周波数と出力密度(W/L) |
|
| ③ | 発振方式(スイープ発振など) | 単一周波数か、スイープ発振・マルチ周波数発振に対応しているか |
|
| ④ | 振動子の配置 | 底面貼り付け/側面配置/投込型/ホーン型のいずれか、ワークの影の有無 |
|
| ⑤ | 洗浄剤の選定 | 対象物の材質、汚れの種類、安全性(引火性など)を踏まえた洗浄剤の種類(溶剤系・準水系・水系など) |
|
| ⑥ | リンス・乾燥・液管理 | リンス工程の有無、乾燥方式、濾過循環ユニットの有無 |
|
電子基板やパワー半導体製造工程における、フラックス洗浄剤の詳しい種類や選定基準については、下記ページや資料にて解説していますので、あわせてご参照ください。
自社のワークにどの洗浄剤が適しているか判断が難しい場合は、洗浄テストを通じて確認することをおすすめします。洗浄テストを依頼する
6. 超音波洗浄の効果を最大化する運用の6つのコツと注意点
高性能な超音波洗浄装置を導入しても、日々の運用管理や設定が適切でなければ、超音波本来の効果を発揮できません。
安定した洗浄性を維持するための運用のコツを解説します。
| 運用ポイント | 推奨される対応・目安 | 理由 | |
|---|---|---|---|
| ① | 洗浄液の液温 | 使用する洗浄液の推奨温度に従って運用する |
|
| ② | 液量・液面の高さ | 液面センサー等で規定の液位を常に維持する | 液面高さが変わると槽内の音響インピーダンスが変化し、振動子から液中へのエネルギー伝達効率が低下することで、キャビテーションが不安定になり洗浄力の低下や洗浄ムラにつながるため |
| ③ | 溶存空気(脱気) | 洗浄開始前に脱気運転を行う、または脱気装置を設置する | 溶存空気が多いと超音波エネルギーが気泡に吸収され、キャビテーションの発生や伝播が阻害されるため |
| ④ | ワークの配置(向き・間隔) |
|
|
| ⑤ | 治具の材質・サイズ | 治具はできるだけ金属製を選び、大きさ・厚みも必要最小限に抑える |
|
| ⑥ | リンス(すすぎ)工程 | 洗浄後はリンスを行い、表面の残留物を完全に洗い流す | 洗浄剤や剥離した汚れの残留は、乾燥後のシミや汚れの再付着の原因になるため |
7. よくあるご質問
- 超音波洗浄でIPAなどの引火性の高い洗浄剤は使用できますか?
IPA(イソプロピルアルコール)は引火点が約12℃と低く、超音波洗浄で生じる液温上昇やキャビテーションによる局所的な発熱によって、可燃性蒸気が発生しやすくなります。
使用する場合は、防爆仕様の装置や十分な換気、静電気対策などを講じた上で、洗浄剤のSDS(安全データシート)に記載された条件を必ず確認してください。
こうした対策を講じることを前提に使用自体は可能ですが、一般的な非防爆仕様の装置での使用は推奨されません。
- 超音波洗浄はどんな汚れ・素材に向いていませんか?
汚れの種類よりも、対象となる素材・部品側の特性によって注意が必要なケースが多くあります。
水晶発振子のように内部が精密な機構で構成された部品は、超音波の振動によって内部の発振周波数がずれる、目に見えない損傷を受けるリスクがあるため、洗浄を避けるべきとされています。
また、アルミニウムや薄肉のガラスなど衝撃に弱い素材は、低周波数帯での洗浄によって表面に微細な傷(エロージョン)が生じる可能性があるため、周波数の選定や出力の調整が重要です。
8. まとめ:安定した洗浄プロセスを構築するために
超音波洗浄は、キャビテーションや加速度といった複数の物理現象を組み合わせて汚れを除去する技術です。
洗浄不良の多くは、周波数や発振方式、液管理といった条件設定に起因します。
超音波が液中でどのように働き、ワークにどのような影響を及ぼしているのかという原理を理解することが、安定した洗浄プロセスの構築につながります。
また、装置・条件の選定に加えて、対象物や汚れに適した洗浄剤を選ぶことも、洗浄性を左右する重要な要素です。
おすすめ技術資料「フラックス洗浄剤の選び方」
- フラックス洗浄剤を選ぶ時のポイント
- フラックス洗浄剤の種類
- 水系洗浄剤検討時に気を付けるべきポイント など
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9. 洗浄剤・洗浄プロセス選定でお悩みの方へ
ここまで解説してきた通り、超音波洗浄の効果を最大限に引き出すには、装置の選定・条件設定に加えて、洗浄剤の適切な選定が欠かせません。
ゼストロンは、電子基板やパワー半導体の製造工程におけるフラックス洗浄を専門とする洗浄剤メーカーとして、長年にわたり洗浄剤の開発・提供を行っています。
そのノウハウを活かして開発したVIGON® A 301は、超音波洗浄に対応した水系フラックス洗浄剤で、引火点がなく低VOCという安全性の高さを備えながら、高密度実装基板の微細な隙間洗浄も可能です。
製品の詳細はVIGON® A 301の紹介ページをご覧ください。
ただし、搭載部材との適合性によっては、超音波洗浄自体が使用できないワークもあります。自社の洗浄対象にどのプロセス(洗浄剤×洗浄方式の組み合わせ)が適しているかは、洗浄テストを通じて見極めることをおすすめします。
▼洗浄テストを実施する テクニカルセンター・分析センターをチェック
洗浄から清浄度分析までワンストップで
洗浄を検討するにあたって、洗浄剤だけでは完結しません。
弊社は洗浄剤メーカーではありますが、ワークに適した洗浄方式を選択するこ と、そして洗浄後の分析も重要と考えています。
そのため、洗浄剤のご提案だけでなく、洗浄方式の選定、清浄度分析もサポー トさせていただきます。