FT-IR分析とは?原理・測定方法・活用事例までわかりやすく解説
製造現場や製品開発において、目に見えない付着物や原因不明の異物は、重大な品質トラブルを招く要因です。こうした課題に対し、有機物の化学構造を特定できる技術が「FT-IR分析(フーリエ変換赤外分光分析)」です。
FT-IR分析とは、化学系の分析において広く用いられる基本的な分析手法で、非破壊で繰り返し測定できる点と、有機化合物を高い精度で同定できる点を特長としています。
本記事では、FT-IR分析の原理や特徴、測定対象・測定方法から、活用事例や他手法との使い分けを解説します。
ゼストロンでは、FT-IRを用いた有機物・残渣分析サービスを提供しています。分析内容やサービス詳細について詳しく知りたい方は、分析サービスページをご覧ください。
FT-IRの分析サービス
目次
1. FT-IRとは?物質の“指紋”を読み解く分析技術
2. FT-IR分析の特徴とは?
3. FT-IR分析の測定対象と用途とは?
4. FT-IR分析の原理とは?~なぜ物質の種類がわかるのか?~
4.1 赤外線の吸収による分子の振動
4.2 物質固有のIRスペクトル(指紋領域と官能基領域)
4.3 高速・高感度を実現する「フーリエ変換(FT)」
5. FT-IR分析でわかること
6. FT-IRの主な測定方法とサンプルに応じた選び方
7. 【事例】電子部品・基板分野におけるFT-IR分析の活用
7.1 微細接合用はんだペーストの洗浄性検証
7.2 シンター接合デバイスの洗浄性評価
7.3 異物付着による品質トラブルの原因調査
8. FT-IRデータの活用と他分析手法との使い分け
8.1 FT-IRデータの読み方
8.2 他分析手法との使い分け
9. よくあるご質問
10. ゼストロンによるFT-IR分析サービス
11. 技術コラム・資料
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FT-IRは、物質に赤外光を照射し、その透過光や反射光を分光して得られるスペクトルから化学構造を特定する手法です。
物質を構成する分子はそれぞれ固有の化学結合を持っており、その結合に応じた特定のエネルギーの赤外線を吸収します。この吸収パターンは、人間の指紋のように一つひとつの物質で異なるため、得られた「赤外スペクトル」をデータベース(ライブラリ)と照合することで、未知のサンプルが何であるかを高い精度で同定することができます。
- 微量サンプルに対応
わずかな粉末や、目に見えるか見えないかという極小の付着物であっても、適切な測定方法を選ぶことで検出しやすくなります。
- 迅速なデータ取得
サンプルを装置にセットしてから数秒~数分程度でスペクトルが取得できます。
- 豊富なライブラリ
有機化合物に関するライブラリを備えており、自動検索機能によって候補物質を高い精度で絞り込むことができます。
3. FT-IR分析の測定対象と用途とは?
FT-IR分析は、有機材料を中心に、以下のようなサンプルを測定対象としています。
- プラスチック・合成樹脂
- ゴム
- 接着剤
- 繊維
- 油脂
- 有機溶剤
- 電子基板に付着したはんだフラックスの残渣
電子機器、自動車部品、食品包装フィルム、医薬品、ポリマー加工など、さまざまな製造・開発プロセスで混入する異物の解明に用いられます。
4. FT-IR分析の原理とは?~なぜ物質の種類がわかるのか?~
FT-IR分析の原理は、物質ごとに異なる赤外光の吸収パターンを"指紋"のように読み取ることで、化学構造を特定するというものです。
物質が赤外光を吸収する仕組みと、その吸収パターンを装置が高速に解析する原理について、詳しく見ていきます。
4.1 赤外線の吸収による分子の振動
物質を構成する分子中の結合(C-H、C=O、O-Hなど)はバネのように振動しています。
▼伸縮運動の例
この分子に赤外線を照射すると、分子固有の振動周波数と赤外線の周波数が一致したときにエネルギーを吸収します。この赤外光の吸収は、結合状態(炭素と水素、炭素と酸素などの組み合わせ)や結合の多重度によって固有の波数で起きるため、どのエネルギーが吸収されたかを測定することで分子の結合状態を検出できます。
主な結合と吸収波数の目安は以下の通りです。
| 結合 | 吸収波数(cm⁻¹) |
|---|---|
| O-H | 3200~3600 |
| C-H | 2800~3000 |
| C=O | 1650~1750 |
| C-O | 1000~1300 |
4.2 物質固有のIRスペクトル(指紋領域と官能基領域)
測定によって得られるデータは、
横軸:波数(波長の逆数であり、光のエネルギーを表す単位。主にcm-1で表記)
縦軸:光の透過率または吸光度をとった波形グラフ
となり、これを「IRスペクトル」と呼びます。このスペクトルは大きく2つの領域に分かれます。
▼フラックス残渣のスペクトル例(ATR法)
- 官能基領域(約4000~1500 cm-1)
エステル結合、水酸基、カルボニル基など、化学構造の特徴を示す特定の『パーツ(官能基)』に由来する吸収が現れるため、物質が持つ官能基の種類を推定できます。
- 指紋領域(約1500~400 cm-1)
分子全体の複雑な骨格振動がそのまま波形となって現れる領域です。人間ごとの指紋のように、同一の化学物質であれば、細部まで再現性の高い固有のパターンを示します。
4.3 高速・高感度を実現する「フーリエ変換(FT)」
赤外分光法は、当初、プリズムや回折格子を用いて波長ごとに分離して測定する「分散型赤外分光法」が主流でした。しかし、測定速度や感度に限界があったため、1960年代以降、コンピュータ技術の発展とともに干渉計とフーリエ変換を利用した「FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)」が実用化されました。
FT-IRでは、光源からの光を干渉計に通して得た干渉縞を、数学的な「フーリエ変換」処理によって一括でスペクトルに変換します。これにより全波長の情報を一度に取得できるため、高速・高感度・高精度な測定が可能となり、現在では赤外分光分析の標準的な手法として広く利用されています。
分散型IRとFT-IRを比較すると、下記のように多くの点でFT-IRが優位性を持っています。
| 分散型IR | FT-IR | |
|---|---|---|
| 波長分離 | プリズム・回折格子 | フーリエ変換 |
| 測定速度 | 遅い | 非常に速い |
| S/N比 | 低い | 高い |
| 光利用効率 | 低い | 高い |
| 波数精度 | 普通 | 高精度 |
| 微量分析 | 不利 | 有利 |
| 現在の普及度 | ほぼ廃止 | 主流 |
5. FT-IR分析でわかること
FT-IRは物質の特定を主目的とする定性分析に強みがありますが、その測定精度と情報量から多角的な評価が行えます。
- 有機化合物の同定(定性分析)
最も広く利用されている機能であり、未知のサンプルを測定して得られたスペクトルを、データベース上の豊富な標準物質のデータと重ね合わせることで「その物質が何か」を突き止めます。
- 劣化・変性による構造変化の推定
既存のライブラリに合致しない新規の化学物質や、劣化・変性によって組成が変化したサンプルであっても、検出されたピークの位置とパターンから、どのような官能基(水酸基、アミノ基、エステル結合など)が生じているかを推定できます。
- 成分の量や厚みの推定(定量分析)
赤外光の吸収の強さは、サンプル中に含まれる目的成分の濃度に比例するため、これを利用して含有率を推定できます。また、薄膜サンプルであれば、スペクトルの特徴から膜厚を推定することも可能です。
6. FT-IRの主な測定方法とサンプルに応じた選び方
FT-IRの測定手法は、サンプルの種類や形状に加え、前処理の可否や非破壊性の可否によって適切に選択する必要があります。
- ATR法:固体・液体問わず測定可能
高屈折率のクリスタル(ダイヤモンドなど)にサンプルを密着させ、結晶とサンプルの界面で全反射する光を検出する手法です。前処理がほとんど不要で、平らな固体・ペースト・液体・粉体をクリスタルに押し当てるだけで瞬時にスペクトルが得られます。現在、FT-IRの測定において最も主流となっている手法です。
- 反射法:基板や金属表面の付着物に
金属や鏡面基板の表面で反射した赤外光を測定する手法です。サンプルに直接触れずに測定できるため、クリスタルを密着させにくい細部や凹凸のある形状の分析にも対応できます。
| ATR法 (Attenuated Total Reflection) |
反射法 (Reflection) |
|
|---|---|---|
| 測定原理 | ATR結晶を試料に接触させ、エバネッセント波を利用して測定 | 試料表面から反射した赤外線を測定 |
| 試料との接触 | 必要 | 不要 |
| 非破壊性 | やや低い(接触による影響あり) | 高い |
| 微小異物分析 | ◎ 非常に得意 | ○ 可能 |
| スペクトル品質 | ◎ 良好 | △ 試料に依存 |
| 定性精度 | ◎ ライブラリとの一致性が高い | ○~△ |
| 表面感度 | ◎ 数µm程度 | ○ 膜厚や材質に依存 |
| 金属基板上の残渣 | ◎ 得意 | ○ 条件による |
| 凹凸面の測定 | △ 接触性に依存 | ◎ 比較的容易 |
| 立体構造による影響 | △ー×形状によっては不可 | 〇 比較的調整可 |
なお、フィルムや液体のサンプルには、光を直接透過させる「透過法」が用いられることもあります。
数十マイクロメートル角以下のごく微小な異物のスポット分析や、多層ラミネートフィルムの各層識別が必要な場合には、顕微鏡を組み合わせた「顕微FT-IR」が用いられます。
上記の説明は一般的な材料分析における測定方法の選び方ですが、電子部品分野ではこれとは異なる視点も求められます。
実装基板や電子部品では、微量なフラックス残渣や樹脂成分、シリコーン汚染などを評価するケースが多く、試料の形状だけでなく付着位置や汚染レベルも重要な判断要素となります。
ゼストロンでは、FT-IR分析をはじめとした各種分析手法を用いて、電子部品・実装基板における異物や汚染物質の特定などをサポートしております。サンプルの状態やご要望に応じて最適な分析手法をご提案いたしますので、お困りの際はお気軽にお問い合わせください。
分析サービスの詳細・お問い合わせはこちら
7.【事例】電子部品・基板分野におけるFT-IR分析の活用
FT-IRは、電子機器の実装工場をはじめとした製造・品質保証の現場において、洗浄プロセスの効果を確認したり、原因不明の品質トラブルの要因を特定したりするためのツールとして活用されています。ゼストロンが実際に行ったFT-IR分析の事例をご紹介します。
7.1 微細接合用はんだペーストの洗浄性検証
微細接合向けの高信頼性はんだペーストは、難溶性物質や活性剤を多く含むため、洗浄後の残渣有無を正確に判定することが求められます。
この事例では、FT-IRによる有機物の同定とSEM-EDSによる元素判定を組み合わせて洗浄性を評価しました。その結果、洗浄良好品では基板そのものと同様のスペクトル波形が得られ、有機物由来の残渣が残っていないことが分かりました。
本事例は、株式会社日本スペリア社様との共同研究として実施したものです。
共同研究の詳細をご覧になりたい方は、下記ページをご覧ください。
微細接合はんだペーストの洗浄性検証 ~FT-IR・SEM-EDSによる包括的な清浄度評価事例~
7.2 シンター接合デバイスの洗浄性評価
シンター接合は接合部を高圧・高温で圧着する接合方式であり、接着成分や緩衝材由来の有機物が熱圧着されることで、通常の洗浄では除去しにくいという課題があります。
この事例では、洗浄前後のサンプルをFT-IR(ATR法)で測定し、接着成分・緩衝材それぞれに由来するスペクトルのピークが、洗浄後に消失していることを確認しました。
本事例は、マクダーミッド・パフォーマンス・ソリューションズ・ジャパン株式会社様との共同研究として実施したものです。
共同研究の詳細をご覧になりたい方は、下記ページをご覧ください。
シンター接合後に残留する有機物残渣の洗浄評価
洗浄後の製品に異物が付着する品質トラブルが発生し、取引先から是正対応を求められたものの、原因が特定できずお困りだったお客様からのご相談事例です。
ゼストロンでは、異物付着の原因を調査するため、ヒアリングを行った上で、異物の分析にFT-IRを活用しました。
具体的にどのようなスペクトル比較から原因を特定し、どのように改善につなげたのか、詳しい分析の流れは資料でご紹介しています。ご興味のある方は、以下より資料をご請求ください。
ゼストロンでは、お客様のサンプルを用いた洗浄テストを実施し、FT-IRなどの分析結果をもとに洗浄性を評価しています。
現在の洗浄プロセスで、残渣を十分に除去できているか確認したい方は、ぜひ洗浄テストをご活用ください。
洗浄テストについて詳しく見る
8. FT-IRデータの活用と他分析手法との使い分け
FT-IRは有機物の同定を得意とする一方、主に無機物の同定には制限があります。また単独のデータだけでは原因を断定できないこともあるため、データの読み方や他の分析手法との使い分けが重要になります。
8.1 FT-IRデータの読み方
FT-IRのデータは、1つのスペクトルだけを見て判断するものではなく、洗浄前後や良品・不良品など、複数のデータを比較することで初めて意味を持ちます。具体的には、以下のような点に着目します。
- ピークの大きさの比率の変化
- 新たに現れたピーク(未知の成分が混入した可能性)
- 消失したピーク(除去・分解された成分)
▼複数サンプルのスペクトル比較例
上記のように、比較対象となる複数のスペクトルを重ねて見ることで、どのピークが共通し、どのピークに差があるかが浮かび上がります。
既知のサンプルのデータと照らし合わせることで、物質の推測が可能になりますが、より確度の高い判断をするには、SEM-EDSなど他の分析結果と組み合わせることも有効です。
8.2 他分析手法との使い分け
FT-IRで取得できる情報には限りがあるため、分析対象や目的に応じて他の分析・評価手法を使い分けることが重要です。
| 分析・評価手法 | 主な用途 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| FT-IR | 有機物・残渣の成分分析 | フラックス残渣や樹脂など、有機物の同定に有効 |
| SEM-EDS | 微小異物・残渣の元素分析 | 元素の種類や分布を形態観察と同時に把握できる |
| イオンクロマトグラフィー(IC) | イオン性汚染物質の定量分析 | 塩化物・硫酸塩・有機酸などのイオン種を定量評価できる |
| ROSE Test | 基板全体のイオン性汚染評価 | 基板全体のイオン汚染レベルを迅速に評価できるスクリーニング手法 |
| 光学顕微鏡 (マイクロスコープ) |
異物・残渣の外観観察 | 異物の形状や分布を迅速に確認し、詳細分析の前評価として有効 |
FT-IRとSEM-EDXやイオンクロマトグラフィー(IC)、ROSE Testなどを組み合わせることで、異物や残渣の発生原因をより多角的に評価し、原因究明や対策立案につなげることができます。
ゼストロンでは、FT-IRをはじめ、SEM-EDX、イオンクロマトグラフィー、ROSE Testなど複数の分析・評価手法に対応しており、それらを組み合わせながら、分析目的に応じた最適な評価手法をご提案しています。
9. よくあるご質問
- 従来の赤外分光法(分散型)との違いは?
従来の分散型は、光を1波長ずつスキャンして反射・透過のデータを集めていたため、時間と手間がかかりノイズも目立ちやすいのが難点でした。
対してFT-IRは、干渉計を使用して全波長領域を網羅した連続光を一度に照射し、数秒の測定で取得した干渉パターンを一括でフーリエ変換するため、測定時間の短縮とノイズの少ないデータ取得が可能です。
- FT-IRは何の略?
FT-IRは、Fourier Transform Infrared Spectroscopyの頭文字を取った略称であり、正式名称は「フーリエ変換赤外分光法」です。
- FT-IR分析にかかる費用や納期は?
ゼストロンでは、費用や納期について以下のとおりご案内しています。
費用:分析内容やサンプル数に応じて個別にお見積りしています。詳細はお問い合わせください。
納期:分析サービスをお申し込みいただいてから、通常1~2週間程度を目安に結果をご報告しています。ただし、評価サンプル数や分析内容、混雑状況によって変動する場合があります。
詳細な費用や納期については、お気軽にお問い合わせください。
10. ゼストロンによるFT-IR分析サービス
ゼストロンでは、FT-IRを用いた有機物・残渣分析を通じて、電子部品・実装基板に付着した異物や汚染物質の特定、洗浄プロセスの評価をサポートしております。
製造現場で発生しやすい有機物由来のトラブルの原因究明を得意としており、サンプルの形状や付着状態に応じた最適な測定方法をご提案いたします。
また、FT-IRのみでは判断が難しいケースでは、SEM-EDSやイオンクロマトグラフィーなど、他の分析手法とも組み合わせながら、原因調査から洗浄プロセスの構築・改善までサポートしています。
分析サービスでは、分析結果(評価データ)のみのご報告から、分析結果の考察、対策・改善案のご提案まで、ご要望に応じて対応可能です。
- 付着した異物や残渣が何であるか特定したい
- 洗浄後の清浄度を化学的な根拠をもって確認したい
- 原因不明の品質トラブルの発生要因を調査したい
このようなお困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。
詳細については、下記よりご覧ください。
洗浄から清浄度分析までワンストップで
洗浄を検討するにあたって、洗浄剤だけでは完結しません。
弊社は洗浄剤メーカーではありますが、ワークに適した洗浄方式を選択するこ と、そして洗浄後の分析も重要と考えています。
そのため、洗浄剤のご提案だけでなく、洗浄方式の選定、清浄度分析もサポー トさせていただきます。